遙 洋子 Yoko Haruka

遙日記

不思議の国のアップルパイ

2020.12.06

ちょうど、男友達が家に来たので、アップルパイを作ろうと思った。

「アップルパイと紅茶、食べていかない?」

「はい」

「・・・と、この瞬間、この家が、ロンドン郊外のアフタヌーンティーになったわ。アップルパイと紅茶やでえ!」

「よく作るんですか」

「はじめてや」

「そうですか」

「火が通ってるかどうか、心配やけどな。焦げないように、立って、見張っておく」

「僕、リンゴは火が通らなくても、食べれます」

「リンゴやない。パイ生地や。生の小麦粉、食べたくないやろ?」

「なんで、生地が生なんですか?」

「魚焼き機で焼いてるからや。たぶん、パイ生地が焼ける前に、焦げるはずや」

 

できあがった。

 

「おおお。この、焦げた部分にリンゴが入ってる。で、焦げてない部分はパイ生地しかない。で、たまに、アルミホイルが混ざってたら、口から出してや」

「なんで、焦げるんですか。で、なんでアルミですか」

「卵を表面に塗ったから焦げるんや。器がないからアルミで焼いたら、はがれなくなったんや」

 

「どや」

「・・・」

「私も食べる。・・・水の味がするな」

「水の味ですね。不思議な味です」

「リンゴが水っぽいとかじゃなく、これは、水の味や・・・リンゴを水で炊いたからか?」

「み・・・水でリンゴを炊いたんですか!」

「そや。どやって、火を通すんや」

「味付けは?」

「はちみつと砂糖とシナモンも入れた。で、なんで、水の味や・・・」

「でも・・・よーく噛んでいたら、ほのかに、あれ、これ、リンゴかなって味がします」

「味が、まったくしないアップルパイやな」

「僕、味がしないほうがいいです。糖尿気味やし。甘くないほうが」

「甘くもなく、酸味もなく、味もない。これ・・・アップルパイか?」

「アップルパイです。味がないので、僕も食べれます」

「おかわりするか?」

「します」

「どの部位がいい?」

「端っこの、ヘタの部分が美味しかったです」

「リンゴの入ってない部位やな。私もそー思う」

 

で、きゃははっ、と、笑って、バイバイした。

よいアフタヌーンティだった。

 

 

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