遙 洋子 Yoko Haruka

遙日記

この枯れ切った奇跡

2023.05.03

私に驚いた表情でピタと止まり、やがて歩き出した高齢者男性。

おじいちゃんは90歳後半とみた。

 

おじいちゃんに若い女性職員さんが近づき話す。

おじいちゃんは「聞こえない」という。

私はおじいちゃんを「奇跡だ」と感動した。

杖をつかず、枯れきって歪んだ身体で、それでも歩いてる。

目もほぼ見えず、耳もほぼ聞こえないのに。

生きている。その感動に二人の会話を聞き入った。

 

会話にいら立った。

女性は話しが早すぎる。

「これを役所に届けてください」と言ってる。

・・・区役所と言ったほうが言葉が粒立つのに・・・

女性は何度も何度も「役所に」という。

10分後、おじいちゃんが「ああ区役所ね」という。

 

お年寄りにはね。

マスク外して、口の動きを大きく見せて、カとかパとかの破裂音をしっかりして、ゆっくり喋らなきゃ聞こえないんだよ。

口隠して流暢に喋ると、聴力だけに頼るから聞き取れない。

なんで、そんな簡単なことを感じないんだろう。

この枯れ切った奇跡に、どうコミュニケーションが可能か。

欠落してるのは、我々のほうだ。

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